山と空へのものがたり
山と空へのものがたり
「高い山とか見るとさ、自然に手を合わせちゃうことあるじゃない?
三角の山のてっぺんてさ、そういう人たちの気持ちが集まってる気がするんだよね。」
ガンジス川の火葬からはじまった「描きたいもの」は、ミイラや破損物、教会などの祈りの対象から、大地と天体へと変わっていきました。
「死ぬってどういうこと?」から始まったテーマは「生きるってどういうこと?」に変わっていったのだと思います。
広大な宇宙の中で、自分は砂つぶのようなものであること。
けれど、そのつ砂つぶの存在なくして宇宙は存在しないこと。
山や空を見上げた時にしぜんと湧き上がってくる気持ちへと
「描きたいもの」はどんどん広がっていくようでした。
海外の山で一番多く描いたのがマッターホルンです。
「とにかく綺麗なの、かっこいいの」とスケッチに行くたびにワクワクするようでした。
マッターホルンはとても美しく、厳かな山です。
思わず頭を垂れたくなるような真空の気持ちの後に、じわじわと湧き上がってくる自分の物語を描きたかったように思います。
マッターホルンを描いた作品を中心にスイスで本格的な個展を開きたいと思っていましたが、話を進めている最中に病気がわかり、個展は断念することになりました。
絵を預かっていてくださったホテルの支配人さんは「いずれ病気が治ったら」とおっしゃってくださっていましたが、夫がなくなり、また支配人さんも退職なさることになって、昨年の9月、スイスにあった作品が戻ってきました。
今回、銀座の創英ギャラリーさんでそれらの作品を中心に遺作展を開催していただけることになりました。
銀座に出られることがありましたら、ぜひお立ち寄りください。
山や月にこめられた物語を感じていただけたらと思います。